足音が聞こえる。今日もまた、律儀すぎる悪魔が背後から迫ってくるを感じる。彼はゆっくりと、私の左目の奥に手を突っ込んだ。
【回想】サラリーマン犬走の苦悩
12:58… 57… 56…
私は自動機のオペレーションをしていた。あと10分強で加工が終わる。この装置の担当者は別にいるのだが、今は昼休憩で出払っていた。彼が休んでいる45分間だけ、私が代わりに装置に張り付くことになっている。
11:34… 33… 32…
時刻は11時40分を回ったところだ。タイマーがゼロになったら、即座に装置を止めて製品を取り出す必要がある。それほど難しい作業ではないが、手早く処理しないと製品を不良にしかねない。180℃もの熱をかけているのだ。
8:08… 07… 06…
私は一抹の不安を覚えていた。頭がかすかに痛いのだ。なぜかここ数日、決まって正午近くなると頭が痛みだす。クソッッ。なんでいちいちこんなときに。
5:44… 43… 42…
装置の停止時間が近づく。痛みはどんどん強くなっていた。左目が開けられない。苦痛に顔が歪む。私はこの状態で、製品をマトモに扱えるのだろうか？
3:34… 33… 32…
俺は覚悟を決めた。痛みに耐えて作業をこなすしかない。現在、我が製造3課は絶好調。売り上げは2課をあっという間に追い抜き、すでに1課にも肉薄している。社内ナンバーワンの職場になる日も目の前だ。こんなところでつまずくわけにはいかない。
2:01… 00… 1:59…
ダメだ。目を開けていられない。左目からの涙が止まらない。職場には小さな機械音だけが響いていたが、私の頭の中ではヘタクソなオーケストラが大人数で大音響を発していた。左目の奥が刺すように痛い。明らかに普通の頭痛ではない。
『たすけてくれ…』
急に声が聞こえた。何かと思ったが、それは自分の口から漏れたうめき声だった。情けなさ過ぎて苦笑したそのとき、職場の自動ドアが開いた。
『オウ、ジリポカ！お腹いっぱいだよ。パンパン！（腹を叩く音）』
助かった、オリベイラだ。日系ブラジル人の彼は、この装置の担当者だ。私と同い年のはずなのだが、40歳だと言い張られれば信じるくらいのビジュアルをしている。
『ジリ！どうした？具合悪い？』
ジリポカ、というのは私のニックネームだ。ブラジルにいる伝説の鳥らしい。日本でいえば鳳凰みたいなイメージだろう。以前、仲良くなるために覚えたブラジルのカントリーソングがジリポカの歌だった。その歌を覚えただけで、私は日系ブラジル人たちのコミュニティに完全に受け入れられていた。
『ごめん、頭がめちゃくちゃ痛いんだ…』
『OK、ジリ。機械はダイジョウブ。ジリは休んで。』
『Desculpa… Obrigado.（ごめん、ありがとう）』
ポルトガル語でお礼を言って職場を出た。もしオリベイラが早めに来てくれなかったら？私は製品を正しく扱えていただろうか。そんな思考もどうでもよくなるくらい、私の意識は痛みに支配されていた。
私は更衣室で鎮痛剤を飲み込んだ。半分が優しさでできているという評判の市販薬だ。しかし、この頭痛に対してこの薬が効いている気はまったくしない。一向に治まる気配のない頭痛の中で、私は思った。
こんな頭痛に、いつまで耐える必要があるんだ？？
【時間厳守】群発性頭痛の発作の特徴
群発性頭痛はビックリするほど”律儀”です。では、どのように律儀なのか？時間にうるさい群発性頭痛さんの生態に迫っていきましょう。
①人によって季節が決まっている
群発性頭痛の発作が起こる”群発期”のシーズンは、人によってほぼ定まっています。私の群発期は夏の終わりから秋口にかけて、肌寒さを感じるようになる時期です。10回以上群発期を経験しましたが、そのシーズンを外れて群発期が来たパターンは１度しかありません。（１回あるんかい！）
この時期が多い、といった偏りはないようです。ホントに人それぞれですね。期間に関しては1～2ヶ月ほど続きます。私は長いときは3ヶ月ほど続きました。
②人によって時間が決まっている
発作が起こる時刻もだいたい決まっています。これがマジですごい。ホントに時間通り痛くなるのでビックリです。これは体内時計に深く関係していると言われていますが、詳しいことは解っていません。ホント謎だらけやな！！
私の場合は正午がゴールデンタイムです。実はこれレアパターンみたいで、就寝後数時間で発作が起こる人が多いようです。それってマジで地獄ですよ。激痛でたたき起こされるため、眠るのが怖くなって不眠症を併発するそうです。ですので、起きている昼間に発作が来る私は運が良い方だと言えるでしょう。
また別のブログ記事で詳しく書きますが、群発性頭痛の薬はタイミングが超重要です。発作のタイミングで自分が行動できるかどうかは、この病気と付き合っていくうえで大きなファクターです。
③人によって場所が決まっている
高い場所に行くと頭痛が出るとか、そういう話ではないです。頭の右側か左側、どちらかに出る傾向が非常に強いというわけです。（一側性）
私の場合は左側です。右側に痛みが出たことは、ただの一度もありません。
一般的な頭痛と群発性頭痛の痛みは全く違います。普段頭が痛いときは左右の偏りを感じませんが、群発性頭痛の場合は明確に目の奥（眼底）が痛みます。よく”スプーンで目をほじくられる感じ”と表現されますね。私の間隔では”バーベキューの串を後頭部からぶっ刺されて、目玉を後ろからグリグリされる感じ”です。イメージ湧きますか？
【まとめ】群発性頭痛の発作は超律儀！
と言うわけで、群発性頭痛さんがいかにキチキチしているかお解りいただけましたでしょうか。マジで神経質すぎて離婚届出したくなります。絶対に受理してもらえないんですけどね。
ただ見方をかえれば、規則正しいということは対策も打ちやすいとも言えます。群発性頭痛の律儀さは、悪魔のような病気の小さな良心なのかもしれません。
群発性頭痛への対策などはまたの機会に。ガンガン更新していくので、たまにこのブログを見てやってください。
【次回予告】群発性頭痛はなぜ誤診されるのか？
群発性頭痛を正しく診断してもらえるまでに、平均で9年もかかると言われています。長ッッ！！かく言う私も、11年かかりました。（血涙）
では、なぜそんなにも診断してもらえないのでしょうか？それでは次回、群発性頭痛のステルス性能が高すぎる理由についてご紹介いたしましょう。
更新を待たれよ！！
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